YukunP’s diary

古すぎる「定年」のイメージを変えたい! 今の定年は違うんです

佐藤 優氏の著書「還暦からの人生戦略」を読み解く

還暦からの人生戦略

佐藤氏は1960年生まれなので、同じ世代です。
元外交官であり、現役時代は対ロシア外交の最前線で活躍し、2002年に鈴木宗男事件で逮捕され有罪になりました。外務省を失職したあとは作家として活躍しています。
このため公務員で定年を迎えたわけではありません。

本の帯に「教養は孤独を跳ね返す武器になる」と書いてありますが、教養についてはあまり書かれておらず、むしろ、表紙に小さい文字で書かれている「”超実践的”ヒント」がこの本の内容を表しています。

Amazonにある前書きと目次はざっとこんな内容です。

前書き
・再雇用の環境で生き残るための心構え
・残された短い人生をいかに充実して過ごすか
・リタイア後に家に居る時間が長くなったときに配偶者とのいさかいを避けるノウハウ
・還暦以後の人生は撤退戦であり投資や起業には消極的であるべき
・まず自分自身を愛し、次に他者に見返りを求めず奉仕する

目次
第1章 還暦からの「孤独」と「不安」
・再雇用社員の立ち位置を自覚する
・なぜ男性は孤立しがちなのか(家族との関係を40代から意識して改善する)
・50代までの生き方をシフトチェンジする
・積極的に消極主義を推し進める

第2章 還暦からの人間関係とメンタル
・人間関係は「コミュニティ」に移行する
・職場の人間関係には「引いた目線」を持つ
・パートナーとはあえて距離を置く
認知症と誤認しやすい「高齢うつ」
・寝る前のお酒はアルコール依存症への近道

第3章 還暦からの働くことの意味
・「体が動く限り働き続ける」が当たり前
・「時給850円の自分」を受け入れる

第4章 還暦からのお金とのつき合い方
・若者世代の”生活保守主義”を見習う
・固定費減には公営住宅への住み替えも

第5章 還暦からの学びと教養
・目的のない学習は結局続かない
・学びを必要としている若い人を邪魔しない
・オンラインを活用して学びの幅を広げる

第6章 還暦からの死との向き合い方
・平均寿命ではなく「平均余命」が重要
・「あと何年生きるか」を明確に想定する
(このあとは宗教の話)


この本は、上の世代が書く定年本と比べていくつかの特徴があります。

■再雇用について正面から論じている
役職定年、定年、再雇用という環境の変化をどう受け入れるかを正面から論じた初めての本だと思います。
上の世代はたっぷりの厚生年金と企業年金があったので再雇用から逃げられました。
2020年定年世代は年金がないから逃げられず対峙するしかありません。

■第二の人生を撤退戦と位置づけている
第二の人生を第一の人生より輝かせよ、という多くの定年本の教えを否定しています。

■妻との関係をどうするかを具体的にアドバイスしてる
佐藤氏はあまりにも仕事中心で一度離婚しています。だから作家になって家にいる今は家族との時間を大切にしているそうです。
この経験から、40代から関係を深めるべきとアドバイスしています。
そしてどうしてもそれができない場合はリタイア後も外で働き続け、安いワンルームマンションを借りて日中はそこで過ごす、などかなり具体的なアドバイスもしています。

■目的のない勉強を否定している
差し迫った明確な目的があって学ぶのと、単に余った時間で漠然と学ぶのでは、身につきかたに大きな差が出ることを指摘しています。
また、仲間と合うのを楽しみにして大学で目的なく学んでいる人が多くなっており、若い人を邪魔することになりかねないとマイナス面を指摘しています。
安易に図書館で暇をつぶす行為も批判しています。
これも新しい視点です。

■寿命について細かく計算している
60歳男性の平均余命が23.97歳であることから、「自分の死までの大まかなイメージを描かないと思わぬ失敗をする」と30年生きることを前提にすべきと指摘しています。
ざっくり人生100年としている定年本は多いですが、データにもとづいてあと何年生きそうかを論じている本はあまりないと思います。


このように具体的・実践的な内容が詰め込まれたすばらしい本だと思うのですが、Amazonのレビューでは、

「ごく当たり前の事しか書いてありません」「佐藤さんの他の多くの御本に比して、あまりに薄い軽い」「他のよくある定年退職本とさほど代わり映えしないとの印象」

と批判されてしまっています。

この本の内容は佐藤氏の体験とおそらく周りの人の情報にもとづいた、生き方、生活方法についてのアドバイスなので、軽い感じは仕方のないことです。


残念なのは、体が動く限り働き続けることが当たり前としていることです。
働かなくてもやっていける、働きたくないという人も多いはずで、そういう人たちへのアドバイスはありません。

同じくらいの年齢だと考え方がかなり自分に近くなっています。
今後は自分より若い人が書く定年本が出てくるはずなので、ぜひ読んでみたいと思います。