YukunP’s diary

古すぎる「定年」のイメージを変えたい! 今の定年は違うんです

野村総研の富裕層ピラミッドの問題点

ブログ「50代からの東京アーリーリタイア生活」のWATARU氏が詳しく説明しています。

野村総合研究所、富裕層ピラミッド(純金融資産ベース)で「自分はどの階層か?」と考えて思うこと

このデータの問題点は、
・世帯単位の指標となっているので独身の資産額は少なめになる
・借入金で不動産を所有していると資産額は少なめになる
・退職金などの含み資産が評価しきれない
・金の延べ棒などの現物は評価外
・資産を法人で所有させ、自分はその法人から給与をもらい、生活費を経費にして暮らす場合は対象外となる

 

FIRE観点での野村総研の富裕層ピラミッドの持つ問題点

・実際、富裕層や超富裕層の数はもっと多いはずである
・現物投資を積極的に進めると富裕層・超富裕層から外れてしまう
 例えば1億円ある人が頭金2000万円で1億円のマンションを買うと純金融資産は0になって手持ちの現金が8000万円あるにもかかわらずマス層になってしまう
・インフレによって貨幣価値が落ちる分を想定していない
 例えば3%のインフレが10年続くと、1億円の現在価値は7000万円強に過ぎない


つまりこれは富裕層の実態を表していないデータだということです。
2005年から調査が続いているということなので、定点観測の意味はあるでしょう。
逆に言うとそれだけの意味しかありません。


こういう疑問だらけの富裕層ピラミッドがなぜ存在しているのでしょうか。

この調査は、野村総合研究所の金融コンサルティング部主幹なので、彼らとしてもクライアント企業向けデータとして活用したい思惑はあります。
クライアント企業が「富裕層をターゲット」とする際に、富裕層が「実物資産ばかりで現金が無い」となっては、クライアント企業には美味しい顧客にはなりません。

つまり、この富裕層ピラミッドは、野村証券などの営業パーソンが金融商品を売る際に、対象となる顧客がどれくらいいるのかを表すデータであるということです。
不動産や金の延べ棒をたくさん持っていても、金融資産を持っていない人は投資信託を買ってくれないので見込み客にはなりません。

富裕層の実態を表していない、営業ツールに過ぎない資料をたくさんの人がありがたがって引用しているというのはおかしなことだと思います。

60代が払う年金保険料は払い損なのか?

働く60代は「払い損」 年金保険料はどこへ消えた?(日本経済新聞)

このタイトルだと60歳以降に支払った年金保険料は全部無駄だったのかと思ってしまいますが、本文では、

60代が負担する厚生年金保険料の一部が「払い損」になっていることはあまり知られていない。

とあって、一部が払い損、という意味であることが分かります。


どのあたりが損なのだろう、と会員限定の本文を見てみると、その理由は60歳以上だと基礎年金が増えず、厚生年金だけが増えるからだそうです。

しかし、この分を補填するために経過的加算額があるはずです。
本文ではそれについては言及がありません。

厚生年金の経過的加算の計算(ke!san)によると、令和6年度の計算式は、

A = 定額単価(1,701円) × 厚生年金総加入月数(限度 480ケ月)
B = 老齢基礎年金満額(816,000) × 20歳~60歳厚生年金加入月数/480
経過的加算 = A - B

となっています。

60代ならBが固定値であるのに対して、厚生年金に加入し続ければAが大きくなるので、経過的加算額が増えていきます。

今の60代の多くは大学生の時に国民年金を払っていなかったと思います。
例えば大学を卒業して22歳8か月で就職すると、国民年金が2年8か月未納になります。
そして、65歳まで働くと国民年金の任意加入ができず未納のままになり、基礎年金額は2年8か月分少なくなります。
その代わりに経過的加算額が追加されます。

ただし、厚生年金総加入月数の上限が480か月であるため、この場合の経過的加算は2年8か月分だけとなり、5年 - 2年8か月 = 2年4か月の分が払い損になります。

これについても、
・浪人、留年、大学院などで就職が遅れた場合は払い損の期間が短くなる
・再雇用は給料が少なく厚生年金保険料の支払いが少ない、それなのに経過的加算の増額分は一定であり、妻の国民年金の支払いも賄える
と考えると、必ずしも払い損とは言えなくなります。


一部が払い損になっていると言いたいなら、もうちょっと詳細な計算式を示して、どういう条件の人がどのくらい損なのか説明すべきではないでしょうか。


おそらくこういうことだと思います。

払い損の条件は
・18歳あるいは20歳から働き始めている
 ⇒経過的加算がほぼゼロ
・60歳を過ぎても給料が高く、長く働く
 ⇒給料が高いほど年金は損
・扶養する妻がいない、いても年上か年が近い
 ⇒60歳を過ぎると第3号被保険者にできない

払い得の条件は
・25歳から働き始めている
 ⇒経過的加算がフルに追加される
・60歳を過ぎて給料は安くなる
 ⇒給料が安いほど年金は得
・扶養する5歳以上年下の妻がいる
 ⇒第3号被保険者にできるので年金保険料を支払う必要がない

誰がシルバー民主主義を喧伝しているのか

それは、
・政府(内閣府
・政府に採用された学者
・政府の意向に沿った記事を出すメディア
の3者です。


1.内閣府
地方自治体の歳出配分における「シルバー民主主義」の検証(内閣府の研究論文)

だいたいこんな内容です。
・八代氏は本当だと言っている
・島澤氏は嘘だと言っている
・この論文では、複雑な数式を駆使することにより、地方自治体の単独事業においてシルバー民主主義が存在することがわかった

普通に考えれば証明は難しいと思います。
対象をかなり絞って無理やり結論を出したとしか思えません。


2.八代尚宏氏などの学者

八代氏は安倍内閣経済財政諮問会議のメンバーでした。

シルバー民主主義 - 高齢者優遇をどう克服するか(八代 尚宏 著)

「はじめに」に書いてあることは、
少子高齢化に合わせて社会制度や慣行を改革すべきであるが進んでいない
・その原因はシルバー民主主義である
・そのシルバー民主主義は他国と異なる3つの特徴がある
 1.社会保障や雇用慣行が高齢者優先である
 2.財政支出の配分が高齢者に偏っている
 3.新たな制度・慣行へ改革できない
・日本では欧米諸国のように強力な政治活動を行う高齢者団体が少なかった
・2015年にやっと年金を減らす制度改革に対して集団訴訟が全国で起こった
・年金制度は市場原理を無視している
です。

八代氏の論理がかなりおかしいことはこの「はじめに」を読むだけでわかります。

まず、「強力な政治活動を行う高齢者団体が少なかった」と自分で認めてしまっています。そして、

仕事能力にかかわらず定年退職者の雇用を画一的に義務付ける高齢者雇用安定法は、その(シルバー民主主義の)典型例である。
そうした法律が必要となるのは、先進国の多くでは「年齢による差別」として禁止されている定年退職制度が、日本では堅持されているためである。

定年制度がいつまでもなくならないことがシルバー民主主義が嘘であることを示しているのですが、自分で言ってそれに気づかないのは全くおかしいことです。

高齢者の数が多く投票率が高いのだからシルバー民主主義に違いない、高齢者のためになる政策はシルバー民主主義によるものだ、と単純に決めつけているだけです。

八代氏は、安倍元首相の政策を推し進めるための都合のいい人選だったのでしょう。


シルバー民主主義を考える(Voters 八代氏ほか寄稿)

このシルバー民主主義といわれる事例としては、日本の「大阪都構想」への反対などに、高齢者が多かったことがあげられる。

これについては否定されています。

〈第8回〉デモクラシーとは多数決・多数派支配のことではない(大阪府保険医協会)

(維新の)音喜多氏は「70代以上の投票で覆された」と言うが、70代以上の投票者は31万9333人しかいなかった一方、反対票の総計は70万5585票であった。仮に70代以上の投票者の七割が反対だったとしても、反対総数の三分の一にも足りない。要するに、反対票の大部分は、70歳未満の者が入れたということなのである。そもそも、70代以上の投票者は30代以下の投票者(33万9602人)よりも少ないのだ。
これらの事実に照らせば、少なくとも大阪市住民投票に関して、シルバーデモクラシーという指摘は的外れだと言わざるを得ない。


3.日経新聞

シルバー民主主義とは? 高齢者の優遇がもたらす課題(日経ビジネス)

若者世代よりも高齢者の声が優先される「シルバー民主主義」。超高齢化社会の到来と、若者の投票率の低さによってもたらされた現象だ。シルバー民主主義は世代間の格差を広げ日本の活力をそいでいるという指摘もあり、将来のために早急な対策が必要だ。


根拠の薄いシルバー民主主義を本当だとする理由は、シルバー民主主義を喧伝することで自分たち(あるいは顧客の企業)に都合のいい政策を推進したい、と考えているからでしょう。

嘘を言うのはよくありません。

今までは高齢者が沈黙してきましたが、これからは変わっていくかもしれません。

 

シルバー民主主義は嘘か本当か

いろいろ調べてみると、シルバー民主主義は嘘という意見が多いです。

「高齢者差別」この愚かな社会(和田秀樹 著)の第5章の最後「現代の民主主義に潜む真理を知る」に、こんな指摘があります。

なぜ、現代の日本では、人口の27パーセントも老人がいるのに、選挙を通じて彼らの意見が反映され、高齢者を利するような政策が実行されないのでしょうか。現実には、年金も医療費も近年、高齢者には不利になる方向で改定が進んでいます。介護保険などはろくな審議も経ないで自民党が強硬的に自己負担額の大幅値上げを決めてしまいました。

これはその通りだと思います。
シルバー民主主義がちゃんと機能しているのなら、マクロ経済スライドが導入されたときに、政権が変わるような大反対運動が起こったはずです。


シルバー民主主義は嘘であるという意見は他にもあります。

シルバー民主主義は本当? 実験で見えた高齢者の意外な投票行動(朝日新聞)

高齢者は、若い世代に投票したがる傾向がある――。早稲田大学の尾野嘉邦教授(政治学)の研究で、そんな結果が浮かびあがった。選挙のたびに、人口が多く、投票率の高い高齢者を優遇する「シルバー民主主義」が話題になるが、実態は必ずしもイメージ通りではないようだ。


普通に考えて、高齢者の割合は50%よりずっと低いのだから、シルバー民主主義は起こり得ません。

しかも、多くの高齢者は自分たちに不利な政策を掲げる政党・候補者を応援し、その政策を受け入れてしまっています。

高齢者人口が増えているのだから社会保障費が増えているのは当たり前であり、それをシルバー民主主義のせいにするのはむちゃくちゃでしょう。

 

シルバー民主主義とは

この記事が一番詳しいです。
「シルバー・デモクラシー」の虚偽(SYNODOS 吉田徹)

そもそも「シルバー・デモクラシー」は何を意味するのか――もっとも早くこの言葉を使ったのは、著名な政治学者だった内田満が1986年に著した『シルバー・デモクラシー 高齢社会の政治学』(有斐閣)だと思われる。ただ、これは長寿社会を迎える日本で、高齢者がいかに政治参加への回路を主体的に切り開くのかを問うた著作であり、この用語を現在のような意味合いで使ったものではない。

 

財政学が専門の島澤諭は、いくつかの「シルバー民主主義」の指摘をまとめて、これを「高齢者が数の力を背景に投票プロセスを介して政治を支配し、高齢世代に都合の良い仕組みを構築・維持しているため、若者が困窮しているという現状認識」のことだと定義している

 

シルバー・デモクラシーがなぜ問題なのかを主張するものには、3つのバージョンがあることが確認できる。

1.高齢者偏重の社会保障制度が維持されて、将来世代の利益が喪失される
2.社会保障支出のうち、年金と医療の支出が8割を占めるが、その受益者が高齢者であるために財政支出改革に手をつけられない
3.若年層が政治に参加しないため、「老人支配」の社会を創り上げている

しかし、これらに対しては論拠の前提に難があるとしています。

1.日本の公的年金所得代替率は欧州大陸諸国の半分程度に過ぎない
2.高齢者が投票するから社会保障制度が拡充される、という因果関係は発見できない
3.アンケートをとると、具体的な政策は世代別であまり違いがなく、若年層が政治に参加しても異なる政策が選択される可能性は大きくない


ではなぜ根拠の薄いシルバー・デモクラシー論が広まっているのでしょうか。
その理由を2つ指摘しています。

・主権者教育が不十分で、民主政治の理解が単純なものになっているから
・若年層の将来期待と世代間連帯の意識が低いから


この理由は抽象的でちょっとよくわかりません。考えられるのは、

・若い世代を中心に、高齢者の年金、健康保険、介護保険のために多くのお金を取られているという不満がある
・年金、健康保険、介護保険の制度は長い間改革を続けており、もはやここから大きく変えることは難しい
・変えられないのはシルバー民主主義のせいだ、とすればわかりやすく、国民に納得してもらえそうだ
・日本では高齢者は叩いてもいいという風潮があり、悪者にしても問題にならない
・シルバー民主主義を利用すれば、その他のいろいろな制度も変えられそうだ

ということではないでしょうか。
シルバー民主主義を喧伝している人たちは、高齢者が反論しないのを良いことに、やりたい放題やっている感じです。

 

被差別「高齢者」にならないために

「高齢者差別」この愚かな社会(和田秀樹 著)の第5章に、被差別「高齢者」にならないためのアドバイスがあります。

・健康を維持すること 弱ると軽視され抵抗できなくなる
・働き続けること
・無知、情報弱者から脱却する 生活保護の権利、病院の評判、薬の使いすぎ
・たくさんお金を使って物とサービスを買う お金を使うかぎり現役という意識を持つ
・遺言を残す


つまり、健康、仕事、知識、情報リテラシー、お金、についてやるべきことをやりましょうということです。
「働き続けること」は、何らかの活動を続けると解釈すれば納得できます。


他にも、自分が高齢者をバッシングしないこと、高齢者をバッシングしている高齢者を見たら注意すること、もあると思います。


自分が努力したからといって差別がなくなることはありません。
しかし、自分の能力を上げることで差別されないようにする、知識をつけることで差別された場合のダメージを小さくするなど、できることはあると思います。

本来は差別する側が改善すべきことです。
残念ながら日本社会から高齢者差別はすぐにはなくなりそうもないので、まずは高齢者側で対応するしかないでしょう。

 

高齢者による高齢者バッシング

「高齢者差別」この愚かな社会(和田秀樹 著)の第2章に、高齢者による高齢者バッシングの具体例があります。

高齢者を差別しているのは、実は高齢者だ

・老人ホームで、健常者が、認知症や要介護になった人を別棟に移すよう要望する
・老いに対する強い拒絶感や嫌悪感がある 老いを受け入れられない
・自分自身が年寄りだからバッシングが容赦のないものになる
 「不摂生をしていたからあんなふうになったんだ」
 「意欲がないからボケるんだ」
 「寝たきりになってまで生きているのは見苦しい」
 「もっとしっかりしないとダメだ」
・社会も高齢者自身の発言だからと容認してしまう


自分はこういうバッシングをしないように注意したいと思います。
自分自身が高齢者なんだからできるはずです。自分を卑下するのは良くありません。

そのためには、老いを忌避することなく受け入れること、老いについての真っ当な見方、考え方を持つことが重要でしょう。